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東京高等裁判所 昭和50年(行コ)43号 判決 1977年11月30日

控訴人 双葉観光株式会社

被控訴人 青梅税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 室岡克忠 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四五年三月三一日付でした控訴人の昭和四二年七月一日から昭和四三年六月三〇日までの事業年度の法人税再更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。被控訴人が昭和四五年三月三一日付でした控訴人の昭和四三年七月一日から昭和四四年六月三〇日までの事業年度の法人税更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人の陳述)

従前主張してきたように、法人の支出が、法(昭和四四年法律第一五号による改正前の租税特別措置法)第六三条第五項に定める「交際費等」に当るとされるためには、その要件として、第一に、支出の目的とするところが、交際の目的すなわち当該支出の相手方との間に親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図る目的であること、第二に、支出の相手方が、同条項に「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する」と明記されているとおり、当該法人の事業の関係者であること、第三に、「接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する」と右条項に明記されてあるような行為の態様を有すること、第四に、支出金額が比較的高額であること、第五に、冗費・濫費性を帯びていること、以上の五つの要件を充足することが必要である。

しかるに本件手数料は、次に述べるとおり、右第一ないし第五の各要件をいずれも具備しないので、交際費等には当らないというべきである。すなわち、第一の点は、控訴会社が自己の経営するドライブインに駐車した観光バスの運転手等(運転手、バスガイド、添乗旅行斡旋業者等)に現金(本件手数料)を交付するのは、単にバス運転手等との交際を密にし特殊的な友交関係を形成しようとするためでなく、今後も多くの観光バスが駐車し客を誘致してくれることによつてドライブインの売上を伸ばそうとする目的、すなわち販売促進ないし宣伝広告の目的によるものであつて、本件手数料の交付を、原判決のように客誘致のためにする運転手等に対する接待(心付け)とみるのは不当である。第二の点は、控訴会社のドライブインに駐車した観光バスであれば、それが控訴会社との協定関係のある観光会社の所属バスであるか否かを問わず、そのすべてについて運転手等に本件手数料が支払われたのであるから、駐車台数が年間平均二万台に及ぶことをも考えれば、その支給対象はとうてい特定の事業関係者とみることはできず、不特定多数の運転手等に支給されたものとみるべきである。第三の点は、運転手等が観先バスをドライブインに駐車させるのは、観光客の便宜と安全性の確認等の目的のため、その本来の業務の遂行としてこれを行なうものであるが、どのドライブインに駐車するかは運転手等の自由裁量であるので、運転手等は、手数料の交付を受けることを期待してドライブインを選択し駐車するのであり、他方ドライブイン側としても、観光バスの駐車による客の誘致がなされなければ経営が成り立たないところから、駐車した運転手等に対し、客を誘致してくれたことの対価として、広く業界慣行的な定額の手数料を交付するのであつて、このようにして支給された本件手数料は、販売手数料ないし仲立的媒介手数料ともいうべきものであり、また広告宣伝費といつても差支えないものである。第四および第五の点は、本件手数料は、一回当たりの支払が一〇〇円ないし三〇〇円という少額で、しかしその支出が事業の遂行上不可欠のものであるから、冗費・濫費性もない。

(被控訴人の陳述)

法第六三条第五項の規定の文理上明らかなとおり、当該支出が交際費等に当るか否かは、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に支出の目的が接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為な目的とするものであること、の二要件に該当するか否かを判定すれば足り、控訴人主張のその余の要件は、いずれも特に独立の要件とするに当らない。本件手数料は、控訴会社経営のドライブインに駐車する観光バスの運転手等に対し、客誘致のためにする接待の目的で交付されたものであるから、交際費等に当ることは明らかである。運転手等は、その業務の遂行としてドライブインに駐車するのであつて、本件手数料の対価として客を誘導するものではないのであり、また販売の仲介や媒介行為をしている事実もないのであるから、販売手数料ないし仲立的媒介手数料というのは当らない。また本件手数料が、もつぱら販売促進に対する直接的な経済効果を目的として支給されたものでなく、その主たる目的は接待にあること明らかであるから、広告宣伝費とみるのも当らない。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のほか原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

法人の支出が法第六三条第五項に定める交際費等に当るとされるためには、同条項の規定の文理上明らかなように、その要件として、第一に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第二に当該支出が接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものであることを必要とするが、その以外には格別、控訴人主張のようなことを独立の要件とすべきものとは解されない(当該支出が事業の遂行に不可欠なものであるか否か、定額的な支出であるか否か等の判断が、交際費等の認定に直接の必要性を有しないこと引用にかかる原判決の説示するとおりである。)。

控訴人は、本件手数料は交際費等に当らないと主張するが、引用の原判決の認定判断するとおり、ドライブインを経営する控訴会社ら同業者は、自己の経営するドライブインにできるだけ多くの観光バスが駐車することにより客が誘致され売上げを伸ばすことができるところから、駐車した観光バスの運転手等にチツプとして現金を渡す慣行があり、今後も自己の経営するドライブインに駐車してくれるであろうことを期待して右の現金を渡し、運転手等もこれを期待していたもので、右の現金は授受の当事者間でもチツプ(心付け)と呼ばれ、のし袋に入れて交付されており、運転手に三〇〇円、そのほかバスガイドおよび添乗員にもそれぞれ一〇〇円および三〇〇円を交付していたのであつて、そのようにして支出された本件手数料は、支出の相手方が控訴会社のドライブインに駐車した運転手等に限られ、右の支出により運転手等の歓心を買い今後も控訴会社のドライブインに駐車してくれることを期待するもので、客誘致のためにする運転手等に対する接待の目的に出たものと認めるのが相当であるから、交際費等に該当するというべきである。

運転手等は、観光客の便宜と安全性の確認等の目的のため、その業務の遂行として観光バスをドライブインに駐車きせるのであつて、運転手にどのドライブインに駐車するかの裁量権はあるにしても、運転手がそのドライブインからチツプを支給されることの対価として基処に駐車し乗客を誘導するものとは直ちに認めがたいところであるから、その間に対価関係ありとして本件手数料が販売手数料ないし仲立的媒介手数料に該当するものとする控訴人の主張はにわかに採用しがたい。

よつて、以上と同趣旨にでた原判決は椙当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 江尻美雄一 滝田薫 桜井敏雄)

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